神戸先端医療高磁場MRI研究班

自己紹介 半生回顧録 学会日記 予定表 学習資料 連絡帳 写真集 リンク

 大阪工業大学を卒業したある日、大阪市立大学医学部付属病院に勤める放射線技師の佐原朋広(トモヒロ)君が私を訪ねて私の職場にやってきた。佐原君は私の大阪物療専門学校の教え子であり、私が工大へ進学したことを知り、彼もまた工大へ進学した向学心旺盛な男である。

 話を聞いてみると、「卒業研究は長野先生と同じ”橋本先生の生体システム研究室”に入りました。そこで”MRIの撮像コイル作り”を卒業研究のテーマにしようと考えています。橋本先生には許可をもらい”手段は君に任せる。”と言われたので、長野先生よろしくお願いします。」というのである。

 MRIのコイル作りとなると私もやったことがなく、当時、大阪物療専門学校でも教壇に立たれていてちょうど私の勤める病院のCTと超音波診断装置を使って、”癌の温熱療法(ハイパーサーミア)の治療効果”を調べておられた、大阪市立大学工学部の鈴木教授に相談すると、先生の研究室でMRIを中心に研究をされていた黒田輝先生(現在は東海大学大学院情報理工学専攻科:工学博士)”をご紹介頂いた。結果的にこれが渡りに船で、当時、黒田先生は大阪府池田市にあった”通産省大阪工業技術研究所”でMRIの研究をされており、黒田先生の方から「ちょうどよかった。工業技術研究所のMRI研究班(中井先生)が神戸に移り、3T‐MRIの研究を始めるので、MRIを操作しながら一緒に研究ができる理工学部出身の放射線技師を探していた。」とのことで、佐原君と私が毎週、水曜日と土曜日の午後に伺い研究に参加できることになった。

       
        
3T‐MRI(実験用)                0.5T開放型MRI(実験用)

 さて、神戸先端医療研究所であるが”私たちが入ってもよいのだろうか?場違いでは”と思えるほど立派な建物で、ここのカギは全て
”指紋認証”であり、中の先生方も京都大学や大阪大学、大阪市立大学、神戸大学などの様々な分野の研究者、また医療機器メーカーの技術者が一堂に会して医療の研究を行う場所で、まさに”医学工学連携研究所”であった。
 ここで私と佐原君が担当したのはGE社製3T‐MRIの操作と撮像コイル作りであった。当初は見る機械、見る機械初めての物ばかりで、ネットワークアナライザーなどは使用法も分からず、高価な機器類を壊してはいけないと思いオドオドしてばかりであった。一方、佐原君の方は若くて頭の回転が速いというのか、度胸があるというのかこの辺の機器操作には2、3回の説明を聞けば覚えてしまうのである。おじさん(私)の頭の固さには嘆きました。トホホ・・・です。

 コイル作りの方では、私たちに直接ご指導頂いた松岡雄一郎先生(京都大学大学院工学研究科卒:工学博士、現在は神戸大学医学部)には大変お世話になりました。また、製作途中で一個数千円〜数万円もする非磁性体チップ・コンデンサを何個も焼きつけさせてしまったのに最後まで親切に教えて頂きました。いくら研究費が出ているとはいえ、辛抱強くご教授頂き本当にありがとうございました。

 ここでやっていた研究はGE横河との共同研究であったので全てを公開することはできませんが、当時先生方に教えて頂いた知識が教壇に立つ身となった今では、私の講義ネタの引き出し(貴重な財産)となっています。また、標準MRI翻訳出版の話では、京都医療科学大学の笠井俊文先生をご紹介頂き、笠井先生には今でもMRIの件で分からないことがあるときや、機器実験での実験方法などを教えて頂いております。

 私と佐原君を神戸先端医療高磁場研究班へ誘って頂いた黒田輝先生、私たちと一緒にコイル作りを担当されていて親切に教えて頂いた松岡雄一郎先生、その節には本当にお世話になりました。佐原君ですが、大阪工業大学大学院修士課程を卒業し修士を取得しています。私は教え子の佐原君に追い越されてしまいましたが、私を慕ってくれていた教え子が学位を取得したことに心地よい喜びを感じています。
 
 これも黒田先生、松岡先生にご指導頂いたおかげです。本当にありがとうございました。


《コーヒー・ブレイク》

 MRIの撮像コイルに入っている”バランス・アンバランス回路:通称バラン回路”とは

 交流回路の電流は交流であるため始点・終点、往路・復路があります。この行きと帰りの条件をそろえるために回路内に挿入するのがバラン回路(バランス・アンバランス回路)です。行きと帰りの数値の調整は、コイルの巻数を増やしたり減らしたりすることで調整していきます。


  

      バランス・アンバランス回路図               バランス・アンバランス回路


《親父の苦言》 基礎の重要性!

 
とにかく世の中、すぐに新しいものを欲しがります。車、PC、携帯電話、そのほかの電気製品など次々に新製品が発売され売れていますが、”新しいものを持っていたり、使用していたらそれがステータスなのでしょうかね?”自慢げに人に見せて、「ワァー、凄いな」と言ってもらって喜んで。私の私生活では、車はいつも中古ですし、携帯電話などは99%が電話に使うだけです。そこで私はいつも考えることがあります。それを使っている皆さんは”その機能を十分に使いこなしているのかな・・・?”と。工学部出身の私が考えることは、まず、”多機能なものやマニピュレータが多い機器・機械ほど壊れやすい”ということ。次に考えることは、”使っている皆さんは、はたしてどこまで機器・機械の中身(プログラムや構造)を分かっているのかな?”ということです。

                 
Simple is best.

 物(機器・機械)を使いこなす、ということは構造や動作原理、制御プログラムまで分かって使うということではないでしょうか?私が今まで見てきた経験から言いますが、ほとんどの人がそのようには見えませんでした。今使っている放射線機器や電気製品の動作原理も熟知しないで、使いこなさないままにすぐに新しい製品を欲しがる人が多いのには驚きます。

 我々の仕事は放射線技師です。”機器を使いこなす仕事”なのです。その技師がやることは、まずは職場から与えられた機器・機械の動作原理をしっかりと勉強し、次にやることは性能・特性を十分に理解した上で使用することではないでしょうか?原理や特性も分かっていなのに新製品を求めても、これでは”猫に小判、豚に真珠状態”です。

 CTやMRI、超音波診断装置などは機種や製造メーカーが違っても”原理は全て同じ”なのです。原理がしっかり分かっていれば、どのメーカーの機械にもすぐに対応できます。機器の操作法などは一週間もマニュアルを見ながら触ればすぐに覚えることができます。

 「すぐに新しいもの欲しがるスタンスではなく、与えられたものを十分に使いこなすスタンスの方が大切」なのではないでしょうか。

 勉強でも基礎が分かっていない人にいくら応用を説いても伝わりません。学生さんにとっては、地味ですが一年生のときの基礎教養科目(物理・数学・英語など)や実験科目が特に大切なんですよ。

HP Top Next